2012年7月17日火曜日

シンポジウム「平等と自立を手に入れるために」vol.2 報告

7月16日、成人講座としてシンポジウム「平等と自立を手に入れるために」vol.2 〜歴史背景から考える 日本の婚外子と非婚の母〜 を開催しました。

この日は7月の第3月曜日、海の日です。
本来ならば国民の休日のため公民館は休館なのですが、フランス在住の研究者、猿ヶ澤かなえさんが調査のための来沖されるということで、急遽シンポジウムを開催することになり、シンポジウムの時間帯だけ臨時開館しました。

第一部は、猿ヶ澤さんの講演です。
「家族のかたちの変遷 —婚外子を視点に—」をテーマに、お話いただきました。

講師の猿ヶ澤かなえさん



講演は、「婚内子」「婚外子」「嫡出子」「非嫡出子」など用語の意味を解説するところからはじまりました。
「嫡出」とは、「正統な」という意味が含まれるので、猿ヶ澤さんは「嫡出子」「非嫡出子」という言葉は使わずに「婚内子」「婚外子」と呼んでいるそうです。

婚外子の出生率の国際比較によると、日本は例外的に比率が低いそうですが、この婚外子の比率は昔から低かったかというとそうではありません。
ピークは1910年で9.4%と高かったそうです。

「日本は以前、一夫多妻制でした。明治3年には妻妾制度が定められ、妾という存在は法的に正式に認められ、妻、妾、どちらから生まれた子どもも「婚内子」とされていました。
この背景には家制度があります。家を存続させること、跡取りをつくること、という大義名分のもとに一夫多妻制が認められていたのです。
しかし妻妾制度は明治13年に廃止されました。当時、日本政府は西欧諸国と対等な条約を取り付けたいと思っていたという時代背景があります。キリスト教的価値観から一夫一婦制の結婚を重視する西欧に合わせて、この制度を廃止したわけです。
さらに明治31年に施行された旧民法の中で、「婚外子の相続分は婚内子の2分の1」(1004条)と、婚外子の相続差別が法律に書かれることとなりました。
しかしながら、妻妾制度廃止後も、父親に認知された婚外子の場合、第二次大戦前期まで社会的にも法的にも認められていました。
戦後アメリカ統治の中、民法が改正され、一夫一婦制の法律婚が一般に浸透しました。
「法律婚の尊重のため」という理由で、日本では現在でも婚外子への法的差別が存在します。」


熱心に講話に耳を傾ける参加者。




「戦後日本の標準的な家族のかたちというと、「働く夫、主婦、子どもは2人」というイメージがありますが、これは産業構造の変化によって現れた形。その頃からサラリーマンを支える専業主婦の存在が重視されました。男女性別役割分業は、「再生産労働」(出産・育児・教育・高齢者介護など)を女性に担わせたい政府にとって都合がよく、税金控除などの制度で専業主婦のいる世帯が優遇されるようになりました。そして、「働く夫、主婦、子どもは2人」という世帯が「標準家族」と呼ばれるようになりましたが、実際には様々な家族のかたちがありました。」

戦後の日本女子労働力率を表でみると、1960 年は54.5%、1965年50.6%、1975年45.7%と高度経済成長の時期に反比例して労働力が低くなっているのがわかります。
その後はまた上がっていきますが、この増加は結婚や出産しても仕事を続けるということではなく、出産後ある程度育児が落ち着いた時にパートなどの非正規雇用で仕事に就くという方が多いので、数字だけをみると女性の職場進出が増えたように感じますが、キャリアウーマンが増えたということではないのが現状です。


「婚外子差別撤廃や夫婦別姓導入に反対する立場として、「日本の家族を守ります」という主張がありますが、実際には伝統的な日本の家族のかたちというものは存在しないし、ひとつのモデル通りの家族が「日本の家族」ではないわけです。さらには、その時代その時代で家族のかたちにも政治が影響しているということが分かりました。」

ヨーロッパでは、子どもの人権尊重論から婚外子差別をなくそうという論理からライフスタイルの選択に関する中立性という論理に移行しており、現在は婚外子差別が存在しないと言える状況になっているそうです。
しかし、日本の法律は、ライフスタイルの選択に関する中立性にはほど遠く「子どもの人権思想」にも達していないのが現状だそうです。

(ほかにも興味深い話がたくさんありましたが、ここでは全てを報告できないのでご了承ください)



第二部は、「非婚シングルマザーの現状」と題して、しんぐるまざあず・ふぉーらむ沖縄の代表、秋吉晴子さんにも登壇いただき、会場も交えてのフロアディスカッションを行いました。

猿ヶ澤さん(左)と秋吉晴子さん(右)


最初の質問は「婚外子は税制上も差別されているが、是正に向けての全国的な動向を伺いたい」というもので、まず、秋吉さんから寡婦控除のみなし適用について詳しく説明がありました。

寡婦控除とは、夫と死別または離別した女性に対しての税制上の優遇措置ですが、非婚シングルマザーは、死別、離別のどちらでもないので、控除をうけることができません。

保育料に関しては、自治体の裁量で決めることができるため、地域の声によって条例の中味を変え、婚外子の保育料のみなし適用ができます。
那覇市でも昨年の市議会で議決され、今年度より保育料のみなし適用がはじまりました。
しかし、当事者からの申請がなければみなし適用されないので、まだ適用対象の10分の1しか受けていないのが現状だそうです。
今後、行政として周知徹底してもらうと同時に、このような動きが県内、そして全国に広がることで、所得税法、地方税法でも寡婦控除の見直しがなされるのではないかという思いで活動されていることを話されました。



その後も、相続について、バブル以降経済状況が変わる中での影響、1980年代に出てきたフェミニズムの論客が与えた影響、などについての質問がありました。

3月に開催したシンポジウムのパネリスト山城紀子さんも参加。
フロアーからコメントをいただきました。


それぞれの質問に関して、裁判所の判例なども交えながら、わかりやすくお話しいただきました。

また、会場には、3月に開催したシンポジウム「平等と自立を手に入れるために 〜シングルマザー 母と子・女性の人権を知る〜」のパネリスト、山城紀子さんもいらしていて、貴重なコメントをいただくことができました。


ディスカッションの中でとくに印象に残った発言が二つありました。

ひとつは、生活保護の話になった時の猿ヶ澤さん発言です。
フランスでは、日本のように家族や世帯でみるのではなく、個人の人権を尊重するので、身内が金持ちだろうと、困っている個人に対して直接手を差し伸べる、支援する、というお話です。

もうひとつは、秋吉さんの発言。
寡婦控除の問題などを多くの人に理解していただくのはどうすればいいのかと考えるときに「子どもの人権問題として話をするほうが理解されやすい」とよくいわれるが、本音を言うとそれは別の問題で、本質的には女性の問題なので女性の言葉で伝えていく必要がある、という発言でした。

2時間という限られた時間でしたが、深いお話ができたと思います。

このブログでは全てを紹介することができませんので、関心のある方は下のUSTアーカイブで動画をご確認ください。

今回のシンポジウムの様子をより多くの方と共有できればと思い、OAM(沖縄オルタナティブメディア)の協力によりUSTREAM配信および記録が実現できました。


※下の「▷」をクリックすると再生します。




■第一部「家族のかたちの変遷 —婚外子を視点に—」猿ヶ澤かなえ





■第二部「非婚シングルマザーの現状」猿ヶ澤かなえ × 秋吉晴子





シンポジウムの報告記事が沖縄タイムス(2012.7.17)に掲載されました。




(報告:宮城)